王道か覇道か

行く春が惜しまれる今日このごろでございます。皆様お元気でお過ごしでございましょうか。日ごろは大変お世話になっております。誠にありがとうございます。
拙宅前の小さなスペースに、赤いチューリップが咲きました。亡妻が生前に植えたものだろうと思います。昨年、病床にあった妻は何も手入れをしておりませんでしたので、一昨年以前に植えたであろう球根が自力で立ち上がったのです。湧き立つような強い生命力を感じることができました。
さて、最近、往年の歌手、ちあきなおみさんが再評価されているそうです。昭和40年代に活躍された歌手ですので、35歳以下の方は御存知ない方が多いと思います。どんな種類の歌でも表現豊かに歌唱できるすばらしい歌手です。演歌『矢切の渡し』は細川たかしさんが昭和58年に日本レコード大賞を受賞した名曲ですが、元元はちあきさんのために作られた曲だそうです。ちあきさんが歌う『矢切の渡し』は、今でもCDなどで聴くことができますが、歌の中で駆け落ちする二人がちあきさんに憑依して、その情景を再現しているかのようで、具体的なイメージが浮かんでまいります。深い感情移入をされているのです。これを聴いてしまうと、他の方の歌はつまらなく感じてしまいます。芸術性が非常に高いですので、ぜひ聴いてみてください。
しかし、ちあきさんはこの曲を商業的にはヒットさせることができませんでした。カバーした細川たかしさんが大ヒットさせたのです。細川さんが歌う『矢切の渡し』は、切れがよくて、とてもわかりやすくて、人口に膾炙しました。その歌は、ちあきさんの歌ったものとは、似て異なるものとなってしまいました。明快だったから売れたのです。(ちなみにちあきさんは昭和47年に小柳ルミ子の『瀬戸の花嫁』と大接戦の末、『喝采』で日本レコード大賞を受賞されています。)
この二人の違いを考えながらある本を思い出しました。日本経営合理化協会理事長の牟田学さんが書かれた『打つ手は無限』(サンマーク出版)です。この本の中に、『王道』と『覇道』という考え方が紹介されています。広辞苑を調べると、どちらも儒教の政治思想で、『王道』は人徳を本とした政道であり、『覇道』は武力・権謀をを用いて国を治めることと説明されています。牟田先生の著書によると、質を追求する経営が『王道』、量や規模を追求する経営が『覇道』であり、経営者は、王道で行くのか、覇道でいくのか、もしくはその両方でいくのか、しっかりと決めなければ、ダラダラしてしまって、念願は達成できないといいます。例としてダイエーは覇道であり、キーエンスは王道、キャノンはその両方であるとのことです。私は、ちあきさんの『矢切の渡し』は王道、細川さんの方は覇道だなと思ったわけです。
私もいろいろな企業のお客様からお話を伺うことがございますが、企業の数だけ考え方があるわけですし、最近は、企業が成長するかしないかも、任意でよいのではないかと思うようになりました。『王道』でいくと決めたならば、質の高いものを提供して、永続することを主眼におけばいいのです。会社が縮小して、社長一人だけになったとしても、社会的意義が確かで社長が満足であるならば、それでいいではないですか。京都などには古くから続く小さな専門店がたくさんありますし、上田も城下町だけあって、永い歴史をお持ちの企業様が多いです。IT革命以降、市場原理主義や株式上場志向などに侵されて、企業というもののイメージと意味合いがあまりにも変わってしまっているように思いますので、もう一度根本を見直したいものです。
平成十九年四月二十三日 米津仁志
追伸:本田直之さんの『レバレッジ・リーディング』(東洋経済新報社)はとても参考になります。私はもともと読書好きですが、この本を読んでから、読書にさらに拍車を掛けました。3月は12冊の本を読みましたが、もう少しスピードアップできないものかと思案しております。
ちあきなおみ/全曲集/矢切の渡し
細川たかし/北酒場/矢切の渡し
本田 直之/レバレッジ・リーディング
牟田 學/打つ手は無限 ~変貌する社長業




